vol.10 同じ「聞く」でも、答えの質は変わる


聞き方ひとつで、データは使えなくなる

何を聞くかが決まっても、それで調査ができるわけではありません。同じことを尋ねるのでも、設問の文面や答え方の選択肢の作り方ひとつで、集まるデータの質は大きく変わります。せっかく患者さんに時間を割いてもらっても、設問の作りが悪ければ、得られた答えは判断材料にならない。ここでは、信頼できる回答を得るための設問づくりの勘所を見ていきます。

答えやすさが、回答の質を決める

まず、答え方の形式です。患者満足度の設問では、「とても満足」から「とても不満」までを段階で答えてもらう形が基本になります。何段階にするかは、5段階や7段階がよく使われます。段階が細かいほど微妙な違いを拾えますが、多すぎると患者さんが選びにくくなります。診察後の限られた時間で答えてもらうことを考えれば、直感的に選べる段階数に収めるのが現実的です。

もう一つ、見落とされがちなのが「答えられない項目」への配慮です。たとえば、その日に検査を受けなかった患者さんに検査の満足度を尋ねても、答えようがありません。無理に答えさせると、実態を反映しない数字が混じってしまいます。「該当しない項目は未記入で構いません」と一言添えるだけで、回答者の負担が減り、データの正確さも上がります。

設問文は、中立に、一つずつ

設問の文面にも、守るべき原則があります。

一つは、誘導しないことです。「当院の親切な対応にご満足いただけましたか」のように、答えを期待する言葉を設問に混ぜると、患者さんは「満足」と答えやすくなります。これでは本当の評価が分かりません。「対応にどの程度満足されましたか」と、中立に尋ねる必要があります。

もう一つは、一つの設問で二つのことを聞かないことです。たとえば「医師の説明と態度に満足しましたか」という問いは、説明には満足したが態度には不満、という患者さんを困らせます。どちらについて答えればいいのか分からず、回答が曖昧になります。前の記事で「医師の説明」と「医師の態度」を分けて尋ねることを勧めたのは、改善箇所を特定するためであると同時に、こうした設問づくりの原則にも沿っています。聞きたいことは、一つずつ分けて尋ねる。これが鉄則です。

「信頼できる調査」とは何か

ここで、調査の質を支える二つの考え方に触れておきます。少し専門的になりますが、知っておくと自院の調査を見直す目安になります。

一つは、同じことを測れば同じ結果が出る、という安定性です。たまたまその日の気分で答えが大きくぶれるような設問では、調査として頼りになりません。もう一つは、測りたいものをちゃんと測れている、という的確さです。「満足度を測っているつもりが、実は別のことを測っていた」では意味がない。専門的にはそれぞれ信頼性、妥当性と呼ばれますが、要は「ぶれずに、狙ったものを測れているか」ということです。

自前でゼロから設問を作ると、この二つを確かめるのは簡単ではありません。そこで力を発揮するのが、すでに研究で検証された設問を参考にすることです。

検証された「ものさし」を借りる

日本には、患者満足度を測るために作られ、信頼性と妥当性が確かめられた尺度がいくつかあります。

たとえば、医療やサービスへの満足度を測るCSQという尺度の日本語版は、信頼性と妥当性が検証されており、満足度調査の基準として使われてきました。また、複数の医療機関の外来患者を対象にした研究では、独自に作った総合満足度の設問が、このCSQ日本語版と照らし合わせても妥当であることを確かめたうえで使われています。こうした研究で実際に用いられた設問は、「この医療機関で受けた医療は、望んでいたものだった」「また医療が必要になったとき、ここでもう一度受けたいと思う」といった、シンプルで答えやすい文面になっています。

ゼロから設問を考えるより、こうして検証された設問を下敷きにし、自院の状況に合わせて調整するほうが、はるかに確実です。先人が信頼性と妥当性を確かめてくれた「ものさし」を借りる、という発想です。

完璧を目指すより、まず始める

ここまで設問づくりの原則を述べてきましたが、最初から完璧な調査票を作ろうと気負う必要はありません。中立な文面で、一つずつ、答えやすい形で尋ねる。検証された尺度を参考にする。この基本を押さえておけば、十分に使える調査になります。

そして、実際に運用してみると、「この設問は患者さんに伝わりにくい」「この項目は答えづらそうだ」といった気づきが必ず出てきます。それを次回に反映して改善していけばいい。調査票は一度作って終わりではなく、育てていくものです。次の記事では、その調査を小規模なクリニックで現実的にどう運用するか、回答をどう集めるかを考えていきます。


出典

[1] 立森久照、伊藤弘人「日本語版 Client Satisfaction Questionnaire 8項目版の信頼性および妥当性の検討」精神医学 1999;41:711-717

[2] 山本武志、伊藤弘人、中野夕香里、他「外来患者の患者満足度に関する研究:医療機関の規模・機能による差について」医療情報学 2004;24(2):297-304。独自開発した総合満足度4項目が、CSQ-8Jとの基準関連妥当性を確保していることを示した。

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