声を集めようとしても、なかなか返ってこない
患者満足度を測ろうと、診察後にアンケートをお願いしてみる。受付でWebアンケートのQRコードを案内したり、スタッフが用紙を手渡したり。やり方はいろいろですが、多くの医院が同じ壁にぶつかります。思ったほど回答が返ってこないのです。
これは、医院の努力が足りないからではありません。構造的な理由があります。診察を終えた患者さんは、早く帰りたい、次の予定がある、体調が優れない。わざわざ立ち止まってアンケートに答える動機は、そう強くないのが普通です。QRコードを案内されても、その場では「あとで」と思って、そのまま忘れてしまう。受付や看護スタッフも、日々の業務に追われる中で、一人ひとりに回答を促し続ける余裕はなかなかありません。こうして、集まる声は限られたものになりがちです。
集まったとしても、偏った声かもしれない
回収率の低さには、もう一つ厄介な側面があります。たまたま回答してくれた患者さんが、全体を代表しているとは限らないのです。
進んでアンケートに答える患者さんは、たいてい二種類に偏ります。強い不満を持っていて一言言いたい人か、医院をとても気に入っている熱心なファンか。どちらも大切な声ですが、その中間にいる大多数——とりたてて不満はないが特に感激もしていない、いわば「ふつうに通っている」患者さん——の声は、ほとんど集まりません。
この偏りは、別の記事で触れたGoogleレビューの問題と、根は同じです。感情が大きく動いた人だけが声を上げ、静かに通い続ける多数派は沈黙する。自院で行うアンケートも、油断すればこの罠にはまります。少数の極端な声を全体の評価と勘違いすれば、かえって判断を誤りかねません。
大切なのは、数より「偏りのなさ」
ここで発想を切り替える必要があります。患者満足度調査で本当に価値があるのは、回答数を多く集めることそのものではなく、ふだん声を上げない多数派を含めて、偏りなく声を拾うことです。
声の大きな一部の人だけでなく、静かに通い続けてくれている患者さんが何を感じているか。そこにこそ、医院の本当の姿と、改善のヒントが眠っています。集める数を追う前に、「どんな患者さんから集められているか」に目を向けることが、調査を意味あるものにします。
偏りを抑える、現実的な工夫
では、限られた条件の中で、どうすれば偏りを抑えて声を集められるのか。いくつかの現実的な工夫があります。
一つは、回答の手間を軽くすることです。詳しく尋ねようと設問を増やすほど、回答率は下がっていきます。聞きたいことをすべて盛り込めば網羅的な調査にはなりますが、その分だけ答えてもらえる確率は落ちる、というトレードオフがあります。調査の深さは多少譲ってでも、設問を絞り、スマートフォンで数回タップすれば終わる形にすれば、答えること自体の負担が減り、より幅広い層から声を集められます。深く狭く聞いて偏った少数の声を得るより、浅くとも広い層の声を得るほうが、医院の実態をつかむうえで役立つ場面は多いものです。一つは、声をかける対象を絞らないことです。「不満がありそうな人」「話しやすい人」だけにお願いすると偏りが生まれるので、たとえば「特定の曜日に受診した全員」のように、機械的に対象を決めるほうが偏りは抑えられます。一つは、設問を短く、答えやすくすることです。長大なアンケートは、途中で離脱されるだけでなく、最初から回答を敬遠されます。
自院で抱え込まず、外に頼る選択肢もある
それでも、自院だけで偏りのない調査を回しきるのは、簡単ではありません。設問を適切に設計し、偏りなく配布し、集まったデータを分析する。これらをすべて日常業務の合間にこなすのは、スタッフにとって大きな負担です。
加えて、自院が自院を調べることには、原理的な難しさもあります。患者さんは、目の前のスタッフから渡されたアンケートでは、本音の不満を書きづらいものです。また、集計や分析を院内で行うと、無意識のうちに自院に都合よく解釈してしまう余地も残ります。
こうした負担や偏りが気になる場合には、患者満足度調査を専門に扱う外部の事業者に委託する、という選択肢もあります。設問設計や回収、分析を外部に任せれば、スタッフの負担は軽くなります。また、第三者が間に入ることで、患者さんも率直な評価を伝えやすくなります。
自前で行うか、外部に委託するか。どちらが正解というわけではなく、自院の規模や体制、何を知りたいかによって選べばよいことです。大切なのは、「自院では難しい」と感じたときに、抱え込まずに済む道があると知っておくことです。次の記事では、こうして集めた結果を、どう読み解いて改善につなげるかを見ていきます。


