「満足ですか?」だけでは、何も分からない
患者満足度を測ろうと思ったとき、最もやってはいけないのが、「当院に満足していますか?」という漠然とした一問だけで済ませることです。これでは、満足度が高いか低いかはぼんやり分かっても、なぜそうなのか、どこを直せばいいのかが、まったく見えてきません。測る目的は点数をつけることではなく、改善の手がかりを得ることです。そのためには、何をどう聞くかの設計が決定的に重要になります。
これまで見てきたエビデンスを踏まえると、患者満足度調査は、患者さんが体験する場面ごとに評価を分けて尋ねたうえで、最後に「また勧めたいか」という意向で締めくくる構成が効果的です。順に見ていきます。
体験の場面ごとに、評価を分けて尋ねる
満足度を「全体としてどうでしたか」と一括りで聞いても、改善には結びつきません。患者さんが医院で体験する一連の流れ——施設の印象、診療そのもの、スタッフの対応、待ち時間や料金——を場面ごとに分け、それぞれの満足度を尋ねるのが基本です。
何を場面として設定するか。ここは、日本の患者満足度研究が積み重ねてきた知見が直接役立ちます。複数の研究が共通して、外来患者さんの満足度に関わる要素として挙げてきたのは、医師の応対、看護師の応対、受付・事務職員の応対、待ち時間、施設・設備、そして健康が回復した実感です。これらをそれぞれ独立した設問として用意することで、「全体の評価は悪くないが、受付の対応だけ評価が低い」といった具体的な改善箇所が浮かび上がります。
「誰の、何が」良かったのかまで分ける
ここでもう一段、設問設計に踏み込む価値があります。同じ「医師の応対」でも、患者さんが評価しているのは一つではありません。
第2部で見たように、満足度を最も強く左右するのは医師の応対であり、なかでも患者さんへの接遇・態度と、説明の分かりやすさが大きな比重を占めていました。だとすれば、医師についての設問は「説明や相談のしやすさ」と「言葉づかいや応対」のように、説明の側面と接遇の側面に分けて尋ねるのが理にかなっています。こうすれば、「説明は評価されているが、態度の面で物足りなさを感じられている」といった、より具体的な気づきが得られます。
同じ発想は、看護師や受付スタッフにも応用できます。たとえば看護師なら「言葉づかいや態度」と「問診・処置といった業務そのもの」、受付なら「言葉づかいや態度」と「案内などの業務そのもの」というように、人柄・接遇の面と、業務の的確さの面を分ける。患者さんが感じる不満は、たいていこのどちらかに偏っているため、分けて聞くことで打ち手が明確になります。
最後に、「また勧めたいか」を尋ねる
設問の締めくくりに置きたいのが、第2部で扱った、満足度の先にある行動意向です。「同じ症状の友人や同僚がいたら、この医院を勧められますか」という問いです。
なぜこれを入れるのか。場面ごとの満足度が「今どう感じているか」を測るのに対し、この問いは「これからどう動くか」を映すからです。とりわけ「勧められるか」という推奨の意向は、満足を超えた強い信頼の表れであり、口コミや再来院という、医院の将来に直結する動きを予測する手がかりになります。マーケティングの世界で広く使われるこの考え方を一問加えるだけで、調査は現状の通信簿から、医院の先行きを映す道具へと変わります。
「誰が、なぜ来たか」も合わせて押さえる
ここまでが評価の中心ですが、それを正しく読み解くために、回答者の属性や来院の経緯も合わせて尋ねておくと、分析の幅が広がります。受診が何回目か、どの年代か、その医院をどうやって知り、何を決め手に選んだのか。こうした情報があると、「初診の患者さんは説明への評価が低い」「口コミで来た人ほど満足度が高い」といった、層ごとの傾向が見えてきます。
評価そのものではないので軽視されがちですが、同じ満足度の点数でも、それが誰のどんな期待から生まれたものかが分かると、改善の精度は大きく上がります。第2部で触れた「満足度は期待を映す鏡」という性質を、調査の中で活かすための仕掛けでもあります。
「いつ、誰に聞くか」で、聞くべきことは変わる
ここまでの設問は、受診したその場で答えてもらう調査を念頭に置いています。診察を終えた患者さんに、待合室や会計の前後で回答してもらう形です。この「その場で聞く」という前提は、実は聞ける内容を一定の範囲に絞ります。
たとえば、患者満足度の研究では、患者さんが感じる健康の回復——症状や不安がどれだけ軽くなったか——も、満足度を左右する要素の一つとして確認されています。複数の医療機関を対象にした研究でも、医師の評価や設備・環境とともに、健康が回復した実感が総合満足度に影響していました[1]。
しかし、この健康回復の実感は、受診したその場では測れません。処方された薬を飲む前、処置の効果が出る前の段階で「良くなりましたか」と聞いても、患者さんは答えようがないからです。健康の回復は、受診から時間が経って初めて分かるものだからです。
ここに、調査設計の大切な視点があります。聞くべきことは、「いつ、どんな患者さんに聞くか」によって変わるということです。たとえば、慢性疾患で定期的に通院している患者さんを対象に、一定の期間を経て尋ねる調査であれば、「通院を続けて、体調はどう変化しましたか」という健康回復の実感を聞くことに意味が出てきます。一方、初診や単発の受診を対象にしたその場の調査では、健康回復感は無理に問わず、医師やスタッフの対応、待ち時間、施設の印象といった、その場で確かに答えられる項目に絞るのが現実的です。
自院がどんな患者さんを多く診ているのか、どのタイミングで声を集めるのか。それによって、調査に盛り込むべき項目は変わってきます。
設計がそろって、初めて「使える」調査になる
整理すると、場面ごとに評価を分け、医師・看護師・受付については接遇と業務をさらに切り分け、最後に推奨意向で締めくくる。そして回答者の属性や来院経緯を添える。こうした設計がそろって初めて、満足度調査は改善に使える道具になります。
漠然と「満足ですか」と聞くのと、こうして場面と側面を分けて聞くのとでは、得られる情報の解像度がまるで違います。もっとも、聞くべきことが決まっても、それを実際にどう尋ね、どう答えてもらうかには、また別の工夫が要ります。次の記事では、信頼できる回答を得るための設問のつくり方を見ていきます。
出典
[1] 山本武志、伊藤弘人、中野夕香里、他「外来患者の患者満足度に関する研究:医療機関の規模・機能による差について」医療情報学 2004;24(2):297-304。外来患者の総合満足度に医師の評価・設備環境・健康回復感が影響し、なかでも医師の評価の影響が最も大きいことを示した。
[2] 早瀬良、坂田桐子、高口央「患者満足度を規定する要因の検討」実験社会心理学研究 2013;52(2):104-115。外来患者の満足度が医師の応対への評価と最も強く関連することを示した。


