平均点を眺めるだけでは、何も変わらない
苦労して患者満足度のデータを集めたあと、多くの人がやってしまうのが、全体の平均点を出して「まあまあだった」「思ったより低かった」と一喜一憂して終わることです。これでは、せっかく集めた声が活きません。データは、眺めるものではなく、次の一手を決めるために読むものです。ここでは、改善につながる読み方の勘所を見ていきます。
どの領域が、足を引っ張っているか
前の記事までで、満足度は場面ごとに分けて尋ねることを勧めてきました。読むときも、この領域別の視点が出発点になります。
医師の応対、看護師の対応、受付、待ち時間、施設。それぞれのスコアを並べてみると、たいていの医院で、高い領域と低い領域の凹凸が見えてきます。まず注目すべきは、低い領域です。全体の満足度がそこそこ高くても、特定の領域だけスコアが沈んでいれば、そこが患者さんの不満の源であり、改善の余地が最も大きい場所です。
ここで、領域を細かく分けて尋ねていたことが効いてきます。たとえば医師の応対を「説明の分かりやすさ」と「言葉づかいや態度」に分けて聞いていれば、「説明は高く評価されているのに、態度の面でスコアが低い」といった、踏み込んだ発見ができます。これが「医師の応対」と一括りだったら、何を直せばいいのか分からないまま終わってしまう。低い領域を、できるだけ具体的なレベルまで特定することが、改善の第一歩です。
平均点の裏にある「ばらつき」を見る
スコアを読むとき、平均点だけでなく、回答のばらつき、つまり分布にも目を向ける価値があります。
たとえば7段階で尋ねた場合、平均が同じ「5」でも中身は様々です。全員が無難に5前後をつけた結果の5なのか、高い評価の人と低い評価の人が混在した平均の5なのかで、意味はまるで違います。後者の場合、多くの患者さんは満足していても、一部に強い不満を抱えた人がいるサインかもしれません。平均という一つの数字は、こうした内訳を覆い隠してしまいます。低い評価がどれくらいの割合で存在するのかを確かめることで、平均点だけでは見えない課題に気づけます。
分布を見る一つの方法として、評価の高い側の回答がどれくらいを占めるかに注目するやり方があります。最も良い評価、あるいは何段階か上位の評価をまとめて、その割合を見るのです。たとえば4段階なら最上位の1つ、5段階や7段階なら上位2つを「高評価」とみなす、というように、段階数に応じて区切りを決めます。この「高評価の割合」に注目し、施設どうしの比較や経年の変化を追う読み方は、米国の医療の質に関する公的機関がまとめた外来診療の改善ガイドでも用いられている考え方です[1]。平均点だと小さな違いが埋もれがちなのに対し、高評価の割合は、医院の状態の変化を比較的はっきりと映してくれます。たとえば平均点は横ばいでも、高評価の割合が増えていれば、強く満足する患者さんが着実に増えているという前進を捉えられます。
比べることで、初めて意味が分かる
一つのスコアは、それ単体ではよし悪しを判断できません。「医師の説明の満足度が5点」と言われても、それが高いのか低いのか、比べる相手がなければ分かりません。読み解きには、比較の軸が要ります。
最も手軽で確実なのは、自院の過去と比べることです。半年前、一年前のスコアと並べれば、改善したのか悪化したのかが分かります。特定の改善策を打ったあとにスコアが上向けば、その施策が効いた可能性が見えてきます。患者満足度調査は、一度きりで終わらせず、定期的に続けて経年で追うことで、何倍も価値が出ます。
もう一つの軸は、領域どうしの比較です。自院の中で、どの領域が相対的に強く、どの領域が弱いか。これを見れば、限られた経営資源をどこに振り向けるべきかの優先順位がつきます。さらに、他の医療機関の平均的な水準と比べられれば、自院の立ち位置がより客観的に分かりますが、これは比較できるデータが手に入る場合に限られます。
全体を動かしているのは、どの領域か
もう一歩進んだ読み方として、「どの領域のスコアが、全体の満足度を最も左右しているか」を見る視点があります。
これまで繰り返し見てきたように、医師の応対は満足度を最も強く動かす領域でした。つまり、同じ1点の改善でも、医師の応対の1点と、ほかの領域の1点とでは、全体の満足度への効き方が違う可能性があります。すべての低い領域に等しく労力をかけるのではなく、「全体への影響が大きく、かつ今スコアが低い領域」を見極めて、そこに優先的に手を入れる。こうした読み方ができると、改善の費用対効果が大きく変わってきます。
どの領域が全体を動かしているかを厳密に分析するには専門的な手法も要りますが、まずは「医師の応対のように、満足度の中心になりやすい領域のスコアが沈んでいないか」を最優先で確認するだけでも、十分に役立ちます。
読むことは、改善の入り口
ここまでの読み方を整理すると、低い領域をできるだけ具体的に特定し、評価の分布やばらつきに目を向け、過去や領域どうしで比較し、全体への影響が大きい領域を優先する、ということになります。
こうして読み解けば、漠然とした「満足度」の数字は、「どこを、どの順番で直すべきか」という具体的な行動計画に変わります。逆に言えば、読み方を持たないままデータを集めても、改善にはつながりません。データを集めることと読むことは、改善という同じ目的のための一続きの作業です。
ここまでの第3部で、患者満足度を「どう測り、どう読むか」を見てきました。次の第4部からは、いよいよ読み取った課題を、実際の現場でどう改善していくかに話を進めます。
出典
[1] Agency for Healthcare Research and Quality 「CAHPS 外来診療改善ガイド」2017年


