すべてを一度に直そうとしない
前の記事で、集めた満足度データを読み解き、自院の弱点が見えてきました。ここからが改善の本番です。ただ、ここで多くの医院がつまずきます。低い項目がいくつも並んでいると、「あれも直さなければ、これも直さなければ」と気負ってしまい、結局どこにも手をつけられないまま終わってしまうのです。
改善で大切なのは、すべてを一度に変えようとしないことです。限られた時間と人手の中で、本当に効く一手から動く。そのために、まず「どこから直すか」の優先順位を決めることから始めます。
二つの軸で、優先順位をつける
優先順位は、二つの軸で考えると整理できます。一つは「スコアが低いかどうか」。もう一つは「その領域が、全体の満足度にどれだけ影響しているか」です。
スコアが低いだけでは、優先すべきとは限りません。患者さんがあまり気にしていない項目のスコアが低くても、そこを直したところで全体への効果は小さいかもしれません。逆に、全体を強く左右する領域のスコアが沈んでいれば、そこは最優先で手を入れるべき場所です。
つまり、「スコアが低く、かつ全体への影響が大きい領域」。この二つが重なるところから着手するのが、最も費用対効果の高い進め方になります。
「全体への影響」をどう見るか
では、「全体への影響が大きい領域」は、どう見分ければよいのでしょうか。
一つの手がかりは、各領域のスコアと、「また来たいか」「人に勧めたいか」という意向との関連の強さを見ることです。ある領域のスコアが高い患者さんほど推奨意向も高い、という関連がはっきり出ていれば、その領域は全体の評価を動かしている可能性が高いと考えられます。
ただし、ここには注意が要ります。こうした関連の強さは、あくまで「結びつきの強さ」であって、「そこを直せば必ず全体が上がる」という保証ではありません。相関と因果は別物です。数字はあくまで仮説の出発点として扱い、最後は自院の現場の感覚と照らし合わせて判断してください。
受診の流れに沿って、不満の在りかを探す
優先する領域が見えてきたら、次は、その不満がどこで生まれているのかを具体的にたどります。ここで役立つのが、患者さんの受診の流れを一本の線として描いてみることです。これは、米国の医療の質に関する公的機関がまとめた外来診療の改善ガイドでも、患者がどの場面でつまずいているかを見つけるために用いられている手法です[1]。
予約を取る、来院する、受付で手続きする、待合室で待つ、診察を受ける、検査や処置を受ける、会計する、薬を受け取る。この一連の流れのどこで患者さんがストレスを感じているのかを、順を追って見ていきます。「待ち時間」への不満一つとっても、予約の取りにくさなのか、受付での待ちなのか、診察までの待合なのか、会計の列なのかで、打つ手はまるで変わります。流れに沿って分解することで、漠然とした不満が、具体的な改善ポイントに絞り込まれていきます。
自由記述が、数字の意味を教えてくれる
スコアは「どこが低いか」を教えてくれますが、「なぜ低いのか」までは教えてくれません。その空白を埋めるのが、自由記述です。
低いスコアの背景に、患者さんがどんな出来事や感情を抱いたのか。自由記述の一言が、数字だけでは見えなかった原因を浮かび上がらせてくれることがあります。優先する領域を決めたら、その領域に関係する自由記述を改めて読み返してみてください。数字と言葉を重ねることで、何を直すべきかの輪郭がはっきりします。
一つに絞って、まず動く
優先順位がついたら、欲張らずに一つ、多くても二つに絞って、まず動いてみることをお勧めします。
あれもこれもと同時に変えると、後でどの施策が効いたのかが分からなくなります。一つに絞れば、次の調査でその領域のスコアが動いたかどうかを確かめられ、打ち手が当たったのかを検証できます。改善は、大きく一度に進めるものではなく、小さく試して確かめる、その繰り返しの中で前に進んでいきます。次の記事では、その「直し方」について、陥りやすい落とし穴とともに考えていきます。
出典
[1] Agency for Healthcare Research and Quality「CAHPS 外来診療改善ガイド」2017年


