vol.15 苦情は、関係を立て直す機会でもある


苦情を言う患者さんは、ごく一部

改善を進めていると、避けて通れないのが患者さんからの苦情です。窓口でのクレーム、アンケートの厳しい一言、ときには強い言葉。こうした苦情は、できれば受けたくないものかもしれません。しかし、受け止め方を変えると、苦情は関係を立て直すための貴重な機会になります。

まず知っておきたいのは、わざわざ苦情を口にする患者さんは、ごく一部にすぎないということです。不満を感じても、多くの人は何も言わずに、ただ静かに来なくなります。つまり、一つの苦情の背後には、同じ不満を抱えながら黙って去っていった患者さんが、何人もいると考えたほうがよいのです。苦情を言ってくれる患者さんは、まだ関係を続ける余地を残してくれている、とも言えます。

適切に応じれば、信頼は取り戻せる

不満を持った患者さんへの対応は、サービス業の世界で「サービスリカバリー」と呼ばれ、長く研究されてきました。米国の医療の質に関する公的機関がまとめた患者対応の改善ガイドも、この考え方を医療の現場に当てはめて紹介しています[1]。

そこで示されている知見は、心強いものです。問題を経験した患者さんでも、それが満足のいく形で解決されれば、もともと問題のなかった患者さんと比べて、再び利用したいという気持ちにほとんど差がなくなる、というのです。つまり、苦情そのものが関係を壊すのではなく、その後の対応こそが、患者さんが離れるか留まるかを分ける。うまく応じれば、苦情は信頼を取り戻すきっかけにすらなり得ます。

覚えておきたい、三つのこと

同じガイドは、苦情への対応について、覚えておくべき三つのシンプルな原則を挙げています。一つ、一度目で正しく対応すること。二つ、もし失敗したら、きちんと修正すること。三つ、三度目のチャンスはないと心得ること。

最初の対応がいちばん肝心で、こじれてからの立て直しは難しくなる、ということです。この前提に立つと、苦情を受けたときに大切にしたいことが見えてきます。まずは患者さんの話を最後まで遮らずに聞き、何に困ったのかを受け止める。事実を確かめたうえで、できる限り速やかに、そして公平に対応する。解決したら、それで終わりにせず、その後の様子に一言気を配る。派手な埋め合わせよりも、「きちんと向き合ってくれた」という誠実さが、患者さんの気持ちを和らげます。

現場任せにせず、仕組みにする

苦情対応で難しいのは、それが起きる瞬間が、たいてい現場の慌ただしい場面だということです。受付や診察の合間に、とっさに適切な対応をするのは簡単ではありません。

だからこそ、苦情を「個人の対応力」だけに委ねず、医院としての仕組みにしておくことが大切です。どんな苦情があったかを記録し、共有する。重いものは現場で抱え込ませず、院長や管理者が引き取る。そして、同じ苦情が繰り返されるなら、それは個別対応の問題ではなく、前の記事で見た「改善すべき原因」が現場に残っているサインです。一つひとつの苦情をていねいに受け止めつつ、その奥にある共通の課題を拾い上げていく。苦情への対応と、満足度の改善とは、こうしてつながっています。


出典

[1] Agency for Healthcare Research and Quality 「CAHPS 外来診療改善ガイド」2017年、第6章。サービスリカバリーの考え方は、同ガイドが引用する Berry L. ほかの研究による。

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