vol.5 患者満足度が「また来たい」に変わるとき


満足度の、その先にあるもの

患者さんに満足してもらうこと自体は、目的ではありません。先生方が本当に必要としているのは、満足した患者さんが「またここに来よう」と再び足を運び、「いい先生がいるよ」と周りに勧めてくれることのはずです。

この「また来たい」「人に勧めたい」という患者さんの気持ちを、マーケティングの世界ではロイヤルティ(loyalty)と呼びます。もともとは、顧客がある店やサービスを繰り返し使おうとする意向を指す言葉です。医療に当てはめれば、同じ医師にかかり続けたい、新しく健康上の困りごとができたときもまずこの医師に相談したい、そして誰かに勧めたい——こうした患者さんの前向きな意向が、患者ロイヤルティです[1]。

満足度とロイヤルティは、しばしば同じものとして語られますが、厳密には別の段階にあります。満足度が「受けた医療をどう評価したか」という現在の心境だとすれば、ロイヤルティは「これからどうするか」という未来の行動意向です。そして経営にとって直接効いてくるのは、後者のほうです。

「また来たい」を生むものは何か

では、患者ロイヤルティはどうすれば育つのでしょうか。ここに、日本のプライマリケアを対象とした注目すべき研究があります。

島根と岡山の地域医療の現場で、患者さんの満足度とロイヤルティに何が関係しているかを調べた研究です。この研究では、ロイヤルティを「これからも同じ医師にかかり続けたいか」「新しい健康問題が起きたとき、まずこの医師に相談するか」という問いで測りました[1]。その結果、患者さんが同じ医師に継続してかかれること、必要なときにアクセスできること、そして家族ぐるみで診てもらえるという感覚が、ロイヤルティを高める要素として浮かび上がりました[1]。

ここで重要なのは、これらがいずれも一度きりの診療では生まれない、関係の積み重ねから育つものだという点です。患者さんは、自分の背景や事情を分かってくれている、困ったときに頼れる、と感じられて初めて「これからもここに」と思うようになります。逆に言えば、ロイヤルティは一朝一夕の施策では作れず、日々の診療の質が時間をかけて結晶したものなのです。

満足度は「期待」を映す鏡でもある

患者満足度には、一つの性質があります。患者さんの満足は、その人がもともと何を期待していたかを基準に決まる、ということです。同じ診療を受けても、待ち時間の短さを期待していた人と、じっくり話を聞いてもらうことを期待していた人とでは、満足の中身はまるで違います。

これは一見すると、満足度のあいまいさのように思えるかもしれません。しかし経営の視点に立つと、むしろここに価値があります。満足度を知ることは、患者さんがどんな期待を持って自院を選び、その期待に応えられたのかを知ることでもあるからです。

さらに踏み込めば、その期待が自院の意図したものかどうかも問えます。たとえば「話をよく聞く医院」として意識的に打ち出してきたなら、その期待を持って来た患者さんが実際に満足したかを確かめることで、自院の打ち出し方が機能しているかが分かります。逆に、意図しない期待で選ばれ、それに応えきれず不満につながっているなら、そこには見直すべきズレがあります。

つまり満足度は、単に「良かったかどうか」の点数ではありません。どんな期待で選ばれ、その期待に応えられているか——医院が自分たちの立ち位置を確かめるための鏡になるのです。

「また来たいか」まで捉える

満足度が現在の評価だとすれば、その先にあるのが「また来たいか」「勧めたいか」という未来に向けた行動意向、すなわちロイヤルティです。

経営にとって直接効いてくるのは、この未来の意向のほうです。今回満足したという事実以上に、次もここに来よう、人に勧めようという気持ちこそが、再来院や紹介という形で医院を支えます。だからこそ、満足度という現在の評価に加えて、ロイヤルティという未来の意向まで合わせて捉えることに意味があります。この二つをセットで把握できれば、患者さんが今どう感じ、これからどう動こうとしているのかを、立体的につかむことができます。

満足度調査というと、診療や設備への評価を細かく尋ねるイメージがあるかもしれません。しかしそこに「また来たいか」「勧めたいか」という未来に向けた問いを加えるだけで、調査は医院の成長を映す道具になります。この具体的な設問の作り方は、後の記事で改めて取り上げます。

満足度は、それ自体がゴールではなく、ロイヤルティという行動に変わって初めて経営を支えます。次の記事では、その満足度が具体的に何によって決まるのか、患者さんは医院の何を見ているのかを掘り下げていきます。


出典

[1] Kijima T, Matsushita A, Akai K, et al. Patient satisfaction and loyalty in Japanese primary care: a cross-sectional study. BMC Health Services Research 2021;21:274

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