vol.8 患者満足度が高い医院で、起きていること


満足度の効果は、集患だけではない

ここまで、患者満足度が再来院や口コミを通じて集患につながることを見てきました。実は、満足度がもたらすものは集患だけにとどまりません。患者さんの満足度が高い医院では、経営の別の側面にも、見過ごせない良い変化が起きることが知られています。満足度を測り高めることの価値を、もう少し広い視野で捉えてみます。

満足度の低さは、訴訟リスクと結びつく

医師にとって、医療訴訟は最も避けたいリスクの一つです。そして、患者満足度はこのリスクと無関係ではありません。

米国の調査では、患者さんによる医療の評価が「とても良い」から「とても悪い」までの5段階で1段階下がるごとに、その医療従事者が訴訟の対象となる確率が約21.7%増加することが示されています[1]。背景にあるのは、満足度の根っこにある医師と患者さんのコミュニケーションです。実際、コミュニケーション不足は医療訴訟の多くの原因になっていると指摘されています[1]。

ここには、見落とされがちな因果関係があります。たとえ医学的に同じ結果であっても、患者さんが「ぞんざいに扱われた」「説明してもらえなかった」と感じていれば、不満は訴訟という形をとりやすくなります。逆に、満足度が高く信頼関係が築けていれば、万一何かが起きても、それが法的な争いに発展する確率は下がります。満足度を測り、関係の質に目を配ることは、リスク管理の一環でもあるのです。

患者満足度と、スタッフの満足度はつながっている

もう一つ、経営者として気になるのが、スタッフの定着です。採用も育成もコストがかかる以上、スタッフが辞めずに働き続けてくれることは、医院経営の安定に直結します。

ここでも患者満足度が関わってきます。患者満足度が低い組織では、従業員の満足度も低い傾向があることが指摘されています[1]。理由を考えると腑に落ちます。患者さんが不満を感じるような混乱した職場、非効率な仕組み、不十分な体制は、そこで働くスタッフ自身にとっても、日々のストレスや不満の原因だからです。患者さんが感じる「待たされる」「対応が雑」といった問題は、たいていスタッフも内心で同じように感じています。

逆に、患者さんに良い医療体験を届けようと業務やシステムを改善していくと、その環境はスタッフにとっても働きやすいものになります。実際、ある病院では患者さんの体験向上に重点的に取り組んだ結果、職員の離職率が47%も減少したという報告があります[1]。患者満足度を高める取り組みは、患者さんとスタッフの双方に効く、ということです。

「測ること」が、最初の一歩

満足度を高めることは、集患だけでなく、訴訟リスクの低減やスタッフの定着にもつながる。こうして見ると、患者満足度は医院経営のさまざまな部分に静かに効いている指標だと分かります。

ただし、これらの効果を引き出すには、前提として「自院の満足度が今どうなっているか」を知らなければ始まりません。どこに不満が生まれているか分からなければ、改善のしようもなく、リスクもスタッフの不満も放置されたままになります。

裏を返せば、満足度を測ることは、こうした複数の課題を同時に照らし出す一つの行為だということです。患者さんの声を集めることで、集患の糸口も、訴訟リスクの芽も、職場の問題も、まとめて見えてくる。だからこそ、まず測ることが最初の一歩になります。

ここまでの第2部で、なぜ患者満足度が経営に効くのかをエビデンスとともに見てきました。次の第3部からは、いよいよ実践編です。その満足度を、具体的にどう測ればよいのかに話を進めていきます。


出典

[1] Agency for Healthcare Research and Quality 「CAHPS 外来診療改善ガイド」2017年。各数値の原典は同ガイドが引用する以下による。訴訟リスク:Fullam F, et al. Med Care 2009;47(5):553-559。離職率および従業員満足度との関連:Rave N, et al. J Ambul Care Manage(同ガイド所収)。

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